*写真屋の恋*
「チャンスは掴めるときに掴んでおかないと。ね?」
「…。」
小さい子に言い聞かせるように作り物の笑顔が首を傾ける。
ぅう…美人…。
思わず更に後ずさりしてしまう…。
「本格的に仕事がしたくなったら、そこに連絡するといいわ。…“そんなの”より、ちょっとはマシでしょう?」
チラリとモップに色っぽく視線を飛ばして、小馬鹿にするように微笑む。
うはー今のは面白いくらい感じ悪い!
「じゃあ失礼するわ。用はそれだけよ。」
「あの!」
きびすを返し、スタスタ行ってしまう薫さんの背中に呼び掛ける。
何?っと打って変わったように不機嫌な視線だけ向ける後ろ姿を見ながら、ぐっと手に力を込める。
「その…、か…貴女は私の撮影した写真、……見たことありますか?」
理由が、分からなかったから。
“朗報”をわざわざこんな所まで持ってきてくれる理由が。
「無いわ。」
きっぱりと赤いルージュが言い放ち、綺麗な髪をなびかせて薫さんは立ち去って言った。
彼女は、一度も振り返らなかった。