愛、シテあげる。*完*
ぱち。
一瞬、蓮と目が合って
ぴたり、と蓮が止まった。
「真央、さん」
我に返ったような蓮の声。
私を押さえていた手から、スゥと力が抜けていく。
あぁ、戻ったんだ。普段の蓮に。
良かった……。
安心のあまり、目に溜まっていた涙がポロリと流れ落ちた。
「蓮、だ……」
そう言って、笑った。
良かった。蓮だ。
私に触れているのは蓮だ。
良かった…。
「真央さん…」
「良かった」
私は、自由になった腕を蓮の首に回して、抱き寄せた。
「ッ……ごめんなさい。理性、飛んでました」
「やっぱり。プツリって音、聞こえたもん」
「……」
クスリと笑えば、蓮は黙ってしまって。
顔を見なくても、バツの悪そうな顔してるんだろうなと分かった。
「怖かった」
「……すみません」
「蓮じゃない人に触られてる感覚になって、凄く怖かった」
「……」
ギュウ、と抱き締める腕に力を込める。
本当に、怖かったんだからな馬鹿野郎。
「ッ!……真央さん」
「え?」
焦ったような声に、少し驚く。
「少しの間だけ、目を閉じててください」
「?分かった」
素直にギュッと目を閉じる。
閉じる前、蓮の首に赤い……傷?みたいなものが見えたような気がしたんだけど。
気のせい、かな?
ポスン、と蓮が横に倒れて、蓮は私を自分の胸に抱きすくめた。
「もう、開けていいですよ」
「う、うん」
パチッと目を開ければ、蓮のシャツが視界に広がっていた。
「あ、蓮さっき……」
蓮を見上げる。
「え?」
赤いものが、と言おうとしたけど
「………な、何でもない」
「そうですか」
言えなかった。
だって、
蓮の顔が、
強張っていたから。