愛、シテあげる。*完*
一瞬で、
視界の中のあらゆる物が粉々に散って……
車が大きくスリップして、ガードレールを打ち砕き
見えたのは
真っ暗な森と、黄色い満月
フロントガラスから突き出た母の体
僕に手を伸ばしている父親……」
ブル、と震える蓮の体。私は何も言わず背中を優しく擦った。
これは、封印されていた、
蓮の
悲しい記憶……。
「気がついたときには病院に運ばれていました。僕は首に大きな怪我をしていましたが、それ以外、特に大きな外傷は無かったそうです。
医者に伺った話ですが…………父親がもし僕の腕を掴んで引っ張っていなければ、頭蓋骨骨折で即死だったそうです。
でも、僕を守ってくれた父親も、
フロントガラスから外に飛び出していった母親も、
僕を残して
この世を去りました」
え?
「蓮……嘘、でしょ?」
「事実です」
じゃあ……昌彦さんとは、血が繋がっていないってこと?
「僕の過去よりも……伝えなければならないことは、この先なんです」
そう言うと、蓮はゆっくり頭を上げた。
小さく水面が揺らいだ。
「僕と父さん……つまり昌彦さんは、血が繋がってません。父親の親友だった昌彦さんのところに、僕が養子に行ったんです」
そうだったんだ。
私は、こちらを真っ直ぐに見てくる蓮を見つめ返した。