愛、シテあげる。*完*
途端。





「っ?」


ずるずる、と海底の砂が沈み始める。



うそ。
なにこれ。





危うく足首が呑み込まれそうになり、冷や汗が出る。




いつの間にか波は黒く、おぞましいものへと姿を変えていた。



背筋がゾク、とする。




怖い。




怖い。





「蓮、助けて…」






荒波に揉まれ、体が闇の中に倒れそうになる。


この海に呑み込まれたら、私は……。







嫌だ。





私、まだ死にたくなんかない。






まだまだ、ずっっと




蓮のいる世界にいたいよ。






一緒に、生きたい。










不安定な足場の中、必死に水を掻き分けて進む。



でもやっぱり闇の力は凄いようで、蓮の姿が見えないくらいの大波が、



浜のほうからやってきた。







「何で……やだ。来ないで!」




波は普通、沖の方からくるのに。ここでは常識が通じないの?



というか、なんだか、



『死』が




私を連れ込もうとしてる





私を、歓迎してる









怖い。




怖い怖い怖い怖い。








助けて。



ねぇ、そんなところにいないで助けて。




「蓮!蓮!助けて!」






私一人じゃ抗えない。





何で動いてくれないの?


何で助けてくれないの?







段々深くなっていく絶望に、頬を涙が伝う。












「蓮……」












君はまさか






夢でも、






現実でも、












この世界でも、















私を、
















拒むの?


















溢れだした涙は止まることなく、視界はどんどんぼやけていった。






相変わらず聞こえる愛しかった声。


でも今は、ただの絶望の声。




胸まで闇に浸かった私を、助けてくれる手は無い。






遠のく君の姿がもう一度目に入ったとき






ふ、


と。






私は力無く笑った。







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