愛、シテあげる。*完*
急に大人しくなった魔王。
「どうしたの?」
今の、どういうこと?
「僕が誰であろうと、真央は……変わらない?」
「変わ、る?」
蓮の敬語が無くなった。
「蓮?」
「……」
無言のまま、腕に力を込める蓮。
普段の様子と大分違うから、何だか戸惑ってしまう。
怖いとか苦しいとか、そういう感情を忘れてしまうくらい、蓮のことが心配になった。
「蓮……」
「ごめんなさい」
ふ、と蓮が離れる。
数十センチまで離れた温もり。
顔を上げると、
切なそうな悲しそうな、無理をしているような笑みを浮かべていた。
「ごめんなさい。何でもないです」
あれ、
敬語……。
「気にしないでください」
――ただの独り言ですから。
独り言?
「さ、行きましょうか」
私の腰に手を添えて、出口へと促す蓮。
何だよ。
何だよ何だよ。
何だよこのもにゃもにゃ感は。
何だよその曖昧な感じは。
私は、
こーいうあやふやな対応は、気に食わない。
「蓮」
「何ですか」
「あんたの気持ちとか過去とか悩みとか私は全っ然分からないけど、でも」
ぎゅ、と蓮の手を握る。
「私は蓮が誰であろうと、ずっと私だよ」
だから
そんな悲しい顔するな。
そんな切ない顔するな。
そんな、誤魔化すようなこと……
……やめて。
「蓮がどうなっても、私は、何も変えない」
だって、
「蓮は、蓮でしょ?」
漆黒の瞳が、少し見開かれる。