きっとそれを      平凡と呼ぶのだろう

 比較的会話をしてくれる人も居た。
 味方だったと思うが、定かではない。

「昨日、化粧品貰ったんだって?」
 困ったような顔で話しかけるその人を見て、何かあったと感づくのは奏だけでは無いはずだ。
「お礼の一つもないって、みんなに言ってたよ」

 どういう意味か解らなかった。
 お金を渡そうとしたが断られた。
 深々とお礼はした。

 という前に、化粧をしたくて居た訳でもない。
 相手が勝手に買い、勝手に渡され、お礼がないと怒っている。

「普通はジュースの一つでも買って持って来るものだって…。何かお礼した?」
したことを伝えはしたが、どうでも良かった。

 そして思う。
 『あぁ、ここでの普通は、お局様の法律に乗っ取った普通なんだ。』

 もう、付いていけない。

 夫婦二人で生活するには、どうしても共働きが必要だった。
 給料も高かった。
 ただのアルバイトなのに、そこらの会社の事務職より給料は貰っていた。
 辞められなかった。

 辞めたくなかった。
 けれど、もう限界だ。
 早退した。

 すべての仕事を放り出して、荷物を全部持って帰った。
 制服はクリーニングに出して、送った。
 おかげで少し、鬱が治った。

 今でも忘れない。
 8年以上経って、やっと友達の買い物に付き合って行けるようになった。
 あの時のメンバーは、まだ数人居るが、お局様は見なくなった。
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