ハナ*キス
「……せやね。遠距離なるー言うて別れたんやもんね、うちら」


その一言で。

宏人の笑顔は春風とともに掻き消された。


平静を装った彼が、真剣な眼差しを彼女に向ける。


「俺さ……」

「アカン。ムリやわ」


宏人の言葉をさえぎって、春歌が言う。


「お互い別々の大学で遠距離なるから『別れよう』って言い出したんあたしの方やけど、あんたも『そうしよう』て言うたから、それが一番ええと思てた。
せやけど、無理やった。
あたし、あんたのコト忘れられへんかった」




〝忘れようとしても、毎年、サクラが咲くから〟。



出かかった言葉を、かろうじて押しとどめた。

それを言ってしまったら、〝サクラの木の下の思い出〟を、鮮明に思い出してしまいそうで……。

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