お子ちゃま☆彼氏
エンジと黒を基調としたクラシカルな雰囲気の待合室だった。
目の前には重厚な社長室の扉。右側のすりガラスの向こうは秘書室のようで、数名の秘書の方が仕事に励んでいるようだった。
私は書類を届けに来た、いわば郵便屋さんのようなものなので、大した緊張もせず、きっと緩んだ顔で出されたコーヒーを飲んでいただろう。
ガチャリ。
突然社長室の扉が開いた。私は無意識にその音に反応して扉の方を見て…
「っ…」
言葉が出なかった。イヤ、叫びそうになるのを必死に飲み込んだんだ。
海里だ。海里が出てきたのだ。それも先ほどのキラキラ受付嬢なんて比べものにならない程の絶世の美女を連れて。
海里もソファに座る私に一瞬驚いた顔をしたが、すぐに真顔に戻すと、社交辞令のように2人で軽く会釈して私の横を通り過ぎて行った。
なんだ。なんだ。なんだよ…。
あんな綺麗な彼女がいるんじゃん。大人な顔が出来るんじゃん。お子ちゃまなんかじゃないじゃん。
高級そうなスーツに身を包み、綺麗な女性をエスコートしてる姿は、私の知っているかわいい海里じゃなかった。
海里のワイシャツの襟元が少しピンク色だったのが、私を余計に悲しくさせた。