約束
「僕は君が心配だったんだよ。」
「アタシが・・?」
「君と北川君は僕の生徒だからね、だから余計に心配だったんだよ。」
先生は白衣を脱いで壁のフックに掛ける。
30代にしては逞しい背中がYシャツ越しに見える。
濃いめの茶髪を掻き上げまたメガネを上げる。
そのまま歩いて先生はコーヒードリップの前に立ち丁度できあがったコーヒーを注いだ。
「どうだい?傷は?」
「まだ・・塞がってません。むしろ、日に日に大きくなるんです。」
先生はコポコポと音を立ててコーヒーを注いだ後アタシの前に置いて座る。
「そうか・・・。」
先生はそう言って注いだコーヒーを一口啜った。
先生は心理学の教授。
アタシと優は先生に心理学を教えて貰っていた。
「身体はどうだい?ご飯は食べられているか?」
「・・・そうですね。」
本当はあまり食べられなかった。
一人暮らしだったためどうにか三食は用意したけど、いつもご飯一杯が精一杯だった。
「どれ・・・。」
先生はアタシの左手を取る。
グイッと袖をめくり手首と腕を見る。
「・・・大丈夫のようだな。」
先生が心配していたのはリストカットと、アームカット。
「馬鹿な真似はしませんよ。」
「君なら大丈夫だとは思っているんだけどね。」