約束


「ほらー、化粧崩れちゃうよ?」

「化粧なんて・・・。」


岡林君に会うわけじゃないのに。


「なんで泣いてるの?」

「関係ないです・・・。」

「まぁ、そう言われちゃお終いだけどさ・・・。」


彼は困ったように鼻の頭を掻く。


「俺、なんか君のことほっとけない。」

「いいですよ、そんなこと言わなくても。」

「嘘じゃない、君のことほっとけない。」


彼はまたアタシの涙を拭う。


「他人かもしれないけどさ、他人だから話せるってことあるだろ?」

「それは・・・。」

「俺、優。“優しい”って字の“優”。」


彼はアタシを座らせて自己紹介した。

アタシの涙はいつの間にか引いていた。



「お嬢さんのお名前は?」

「奈々・・・。」


優はニコリと笑って手を差し出す。

アタシはその手を握り返した。




優は笑ってその手を振る。

あまりにも振り回すので腕が痛いと訴えると優は嬉しそうに笑う。

「やっと笑った」そう言って。




それから優はアタシの失恋話を聞いて慰めてくれた。


いつの間にか空高く上がっていた太陽は海に沈んで行くところだった。






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