約束
「ちょっ!痛い!痛いよ、健介!」
「乗って。」
健介は車の助手席のドアを開けアタシを促す。
「いいよ・・・優の側にいる。」
「乗れって!」
半ば健介に押し込まれるように車に乗せられたアタシ。
掴まれ痛い左手首をさすって不満げに健介を睨む。
「悪かったな、でもこうでもしないとお前は出てこないだろ。」
健介はそう言ってギアをドライブに入れた。
「どこに行くの・・・。」
「いいから、黙って乗ってろ。」
健介はいつの間にかいつもの健介に戻っていた。
「健介・・。」
「お前、変なこと考えてないよな。」
「変なこと・・?」
「そう。」
アタシは外を向いて「変なこと」なんて思いつかないというようなフリをした。
本当は知っている。
「変なこと」とはアタシが「優を追うこと」。
考えないわけがない。
今すぐにでも優に逢いたい。
優に逢えるならこんな命捨てたっていい。
アタシは頬杖をついて外を眺めた。
広くて、青い澄み切った空。
いつもはスッキリして見えるのに。
今はどんなに晴れていても曇り空にしか見えない。
優がいなかったら空が晴れていても何も意味がない。