天使の足跡〜恋幟
3
客薄になったレジの前に、商品とともに憎たらしい笑顔を置いた男は。
「太田くん、お疲れさ~ん」
……誠に残念ながら、剣崎恋助である。
「いらっしゃいませ……こんばんは」
癒威は冷たい目線で一瞥すると、バーコードを読み取っていく。
「こんなとこでバイトしてんの? 部活は?」
目も合わせず、淡々と仕事をする。
ペットボトルが2本、弁当が2個……2人分の食事だ。
相手は誰だろう? 織理江さんかな……?
「温めますか」
と無表情で訊ねた。
「冷たー。俺、もしかして嫌われてる?」
無視。
なぜか分からないが、この男は好きになれない。
いや、むしろ嫌いだ。
なんというか、気安すぎるところが。
「酷いなー。まあ、ええけど」
次の商品は……
……ケーキとプリン。
バーコードを読み取る手が止まってしまう。
癒威の視線を追って疑問を悟った剣崎は、ニコニコ答えた。
「ん? ああこれか、うまそうやなぁ思て」
「織理江さんが食べるんですか? 織理江さんが食べるんですよね?」
「俺の。織理江は甘いモン食わんからなあ、『お前は甘党か!』て、キモイ言われんねん。おかしいやんなあ?」
「どうでしょう……」
ぶっきらぼうに返事をし、袋に詰めていく。
会計して、つり銭を返して袋を渡した。
その際に、剣崎がその手を見つめた。
「太田くんて身長の割りに、手、華奢やね」
「すみませんね、『男』のくせに頼りなくて」
剣崎は、真っ直ぐに癒威の瞳を見下ろした。
「“天使”──みたいやな、太田くん」
ドキリと、胸が大きく打つ。
こちらの匂いを嗅がれている感じがした。