天使の足跡〜恋幟
なぜ、この男がその言葉を知っているんだろう……。
「世界には『そういう人』はたくさんおるし、珍しくないけど──」
そこまで言っておきながら、
「……あ゛! 俺ってこういうこと言うからアカンねんな! 正真正銘の男やって忘れてた、すまん!」
と頭を掻き、苦笑を浮かべて謝罪する。
ビックリした……
見抜かれた、かと思った。
何か弁解しようとしたけれど、口を開きかけると同時に恋助は手を振って、店から去ってしまった。
その後すぐに店員が来て、
「太田さん」
「はい」
「知り合いだからって、笑顔忘れちゃ駄目よ。ちゃんとお礼もしなくちゃ」
「すみません……」
叱声を受けた後も、胸は大きく激しく打っていた。
気が気じゃなかった。
恋助も織理江も、真相を暴くかのような目を向けてくる。
それが、いつか本当に暴かれてしまいそうで、恐怖すら感じた。
──が、しかし。
そう思った自分がバカだったと、癒威はげんなりした。
翌日の朝、通学の電車で恋助に遭遇してしまい、隣に立たれた。
その夜にはバイト中のコンビニで遭遇し、バイトが終わると川原でも遭遇した。
そして今夜は、コンビニ付近の公園で鉢合わせてしまった。
「おおー! やっぱり太田くんや! もしかして俺ら、意外と気合うんちゃう!?」
「嫌ですよ、剣崎さんと気が合うなんて!」
「うっわ、ヘコむわ~。そー難しい顔せんで、もっと笑ってみ、可愛くないで?」
「もういいです何とでも言って下さい。……それで、どうしてここにいるんです?」
「そこんアパートに住んでるんやけど。練習しに織理江も来てん」
だから時々、二人分の食事を買っていくのか。
癒威は明かりの点いた部屋を見上げた。
「太田くんも来るか? 織理江やったら練習付き合うてくれるかもな」
言葉に甘えて少しだけ、織理江の力を借りることにした。