天使の足跡〜恋幟
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織理江は床に広げられた楽譜を手に取り、一つ一つ見ていく。
時々声を上げ、時々頷いて、色んな反応を見せてくれる。
「うんうん……あ、こっちの曲は今までのと雰囲気違うね?」
次に彼女が見た楽譜は、『TURE BLUE』という曲だ。
そう。それは槍沢拓也が最初に手掛けた、思い出の曲。
「これも癒威ちゃんが作ったの?」
「やりさ……友達の曲です。その人の歌も曲も好きで、その影響で歌を始めたんです。一緒に歌いたかったから」
そっかあ、と嬉しそうに癒威を見た。
「癒威ちゃんの場合は恋じゃないけど、友達を想う気持ちが、音楽に流れてるって感じがするよね。前に言ったこと覚えてる? 『恋してるか』って話」
織里江はふっと笑って、少しだけ目を伏せる。
「恋すると、人は変われると思うんだ。曲にはその人の性格が表れる、歌詞には気持ちが表れる。人が変われば、音楽も変わる──」
そう言いかけて、ハッと何かひらめいたように掌を合わせた。
「そういえばさぁ! 癒威ちゃんって恋人いるの?」
「え」
癒威は苦笑して答える。
「いないです」
「うそー? 好きな人くらいいるでしょ? ライブしてたら女の子の方が放っとかないんじゃない?」
「そんなことないです……ていうか……」
誰にも言えない、体の秘密……。
それは生まれつきのものでどうしようもないのだけれど、こういう時にそれが困る。
恋愛感情を向けることすら億劫だ。
「ちょっと~、気になる! 内緒にするから教えて? ねっ?」
そんな風に言ってくれる織理江は、本当に嫌味は少しも含まれていなくて、つい何でも包み隠さずに話してしまえるような気になる。
でも、彼女が真実を知ったら、どう受け止めてくれるのだろう?
「そういえば剣崎さんは?」
「恋助なら飲み物買いに行ったよ。癒威ちゃん来てるからって」
少しだけホッとする。
「あの、実は」
「うんうん」
癒威は息を吸い込んだ。