天使の足跡〜恋幟
第3章:前触れ
1
季節は12月。
ブラインドの隙間に、時折ちらちらと雪の姿が見えていた。
ベッドに横たわり、それをぼんやり眺めていた夜。
太田の溜め息が僕を現実に引き戻す。
別に寝ていたわけではない、考えていたのだ。
「……槍沢くん、もう寝た?」
「なに?」
僕は振り返らず、横になったまま窓に向かって返事をした。
「……順二さんってさ、もう剣崎さんとは歌わないのかな」
「あれから1週間も経つのに、急にどうしたの?」
「なんか思い出しちゃって」
そう、と軽く頷いて、僕はあの日の出来事を太田に打ち明けた。
「太田が剣崎さんを探しに行った時、織理江さんが順二さんに『組まないか』って言われてた」
「それ本当?」
驚いた太田が、勢いよく体を起こした。
そのせいで毛布を引っ張られたので、僕は不快な顔をする。
「寒い」
と一言うと、彼はそろりと横になる。
「もしかしたら順二さん、また3人で歌いたいのかな」
そんな風に僕は言ったけど、心のどこかで納得がいかなくて気持ちが悪かった。
わざわざ、織理江さんにだけ話しかけた順二さん。
もう一度やり直したいのは、剣崎さんを含めた3人ではなくて、あくまでも織理江さんとだけかもしれなくて。
もしそうなったら──ならないかもしれないけれど──僕はもっと納得がいかない気がした。
織理江さんの隣にいるのが剣崎さんじゃく、順二さんになってしまったら、何だかとても違和感がありそうで……。
だが、太田からの返事はなかった。
心配して寝返って見たけれど、彼はじっと天井を見つめていた。
「どうしたの?」
呼びかけると、目線だけが僕の方に向けられる。
「槍沢くんは今歌ってること……遊びだと思ってる?」
図星を指され、胸が轟く。
僕も天井を見上げて、答えた。