天使の足跡〜恋幟
3
「いらっしゃいませ、こんばんは」
入ってくる客に明るい挨拶をかける。
その客は目当ての商品を手に取ると、真っ直ぐにレジに来た。
そしてカウンターから目線を上げ、癒威は目を丸くする。
(順二さん……?)
順二は周囲に気兼ねして、小声で言った。
「この前、剣崎たちと一緒に歌ってたよね」
「は、はい」
順二は申し訳なさそうに目を伏せた。そして支払いを済ませた後、さらに小声で言う。
「ちょっと話せるかな」
癒威は背後の時計を振り返る。あと少しで上がりだ。
「少し待ってもらうことになりますけど……」
「構わないよ。じゃあ、この近くの公園で」
仕事が終わると急いで店を飛び出し、近くの公園に向かった。
冷たい空気が頬に刺さる。
待たせてしまって、本当に申し訳ない気持ちになった。
ジャングルジムの下の方に寄りかかっていた順二が、手を振っていた。
「お待たせしました、寒いのに、すみません……」
「いいよ、謝るのは押し掛けた俺の方だし。剣崎たち、また来るかなと思ってたんだけど、なかなか会えなくて。そしたら君のこと見かけてさ。急にごめん」
「いえ……。順二さんの方は新しい仲間、見つかったんですか?」
「どうして俺の名前?」
「剣崎さんが」
恋助の名前を出した瞬間に、順二の表情が曇る。
何か、2人の間にはもっと事情がありそうだ。
癒威もジャングルジムにもたれかかった。
「剣崎さんと順二さんって……」
「仲が悪そうに見えるだろ」
ふっと笑って、一度癒威に視線を落とした。
「犬猿の仲ってヤツなのかも」
「何があったんですか?」