天使の足跡〜恋幟
笑って、順二は地面を踏みしめた。
「話、聞いてくれてありがとう。恋助の様子が分かって、良かった。……もう遅いし、送ろうか?」
「いえ、大丈夫です」
「女の子を一人で帰すわけにはいかないよ」
「ふふっ、一応、男なので」
と言った途端に、順二の目が真ん丸になる。
「え、本当に? 俺、てっきり……」
「平気です、慣れてますから」
順二は困ったように笑って、頭を少し掻いた。
「じゃあ、気を付けてね。……あ」
少し去った所で振り返る。
「名前、まだ聞いてなかったよな?」
「癒威です」
「癒威か……分かった。歌、また聞きに行くよ」
彼が去っていった後で、恋助とは真逆の紳士的な良い人だったな、と癒威は微笑した。
そろそろ帰ろうと、歩き出した時である。
「見てたで~」
聞き慣れた声は、背後から聞こえてきた。
振り返ると、笑みを浮かべている恋助が歩いてくるところだった。
おそらく最初からいた訳ではなく、ちょうど今来たという風だった。
「こんな時間に何してるんですか?」
「それはこっちの台詞や。帰るとこなら送るで? 太田くん一人で帰らすの危険やし」
背中にギターケースを背負っているところを見ると、どこかで歌ってきたらしい。
「はたから見たら剣崎さんが危険ですけどね」
「何でやねん! カッコええ兄貴と可愛いらしい弟にしか見えへんやろ!!」
「嫌ですよー、剣崎さんと兄弟なんかー」
「おー相変わらず冷たいなあ!」
笑いながら二人は駅へと歩き出した。
しばらくして、恋助が尋ねる。
「さっき、順二とおったやろ? 何の話?」
「剣崎さんの様子、気になってるらしいです」
「……あ、そ」
恋助は無表情で頷いた。
それからは何も言わず、沈黙のまま歩き続けた。