天使の足跡〜恋幟
第4章:西の太陽
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太陽が西から昇るなんてことは、何百年、何千年、何億年過ぎようが、絶対にありえない。
太陽は東から昇るものだ。
けれど、もしも。
太陽が西から顔を出したらどうなるんだろう?
──僕はいつも暇になると、『ありえないこと』を考えてしまう癖がある。
でも今はその例えが事実としてあってほしい。
そうしたらずっと、時間が進まずに済むのに。
僕は母に電話をかけながら、テーブルについた。
テーブルの上にはテキストを広げただけで、ペンはノートを走ってはいない。
指に従ってくるくると回転しているだけだ。
プツリと受話器を取る音。
『もしもし。どうしたの?』
「あのさ、進路のことなんだけど」
鞄から進路調査の用紙を取り出す。
そこに書かれている志望校は、実は剣崎さんたちが今まさに在籍している学校だ。
僕のレベルでは難しいと思う。
けれど、どうしてもそこに行きたいのだと、母に話した。
『本当!? 先生はなんて?』
「まだ何も」
ふーんという、困ったような声が聞こえてくる。
『お父さんと相談してみる』
「うん、よろしく。じゃあ……」
僕は電話を切ろうとした。
『拓也』
「なに?」
『まだ早いけど、お誕生日おめでとう』
「……うん、ありがと」
プツリと、通話が途切れる。