天使の足跡〜恋幟
「順二はどうしてここに来たの? 恋助に用事?」
「……実は……そう。今更だけど、恋助と直接、話したくて」
照れくさそうに笑って頭を掻く。
一般的な、照れ隠しのしぐさ。
順二は織理江の隣にしゃがんで、遠くを見据えた。
「何か弾いてくれよ」
順二にそう言われて織理江は苦笑し、歌わずにギターだけを弾いた。
昔、一人で書いた曲を。
最初は明るいが、サビの部分にかけて切なさを感じさせるメロディー。
それに混ざる、草原を滑る風の音と、遠くから響いてくる電車の音。
二人は沈黙したまま。
ふと、織理江は視線を感じて、弦を弾く手を止めた。
その瞬間、互いの目が合う。
なぜか、ドキッとした。
そして同時に顔を逸らす。
視線を草原に落としたままで、織理江が口を切った。
「今、何か言おうとしてたでしょ、どうしたの……?」
「いや、たいしたことじゃないし……」
「そう……?」
「なんで弾くの止めたの?」
「だって順二こそ……」
とまた譲られて、一度は織理江を見るも、再び視線を落とした。
「織理江」
呼ばれて、視線を順二に向けた。
「俺──」
口ごもる彼の視線は、織理江の瞳を瞬きもせずに見つめていた。
しかし、心境を悟られるのを気にしたのか、顔を逸らし軽く頭を掻いた。
「順二……?」
「……何でもない、忘れて」と立ち上がり、斜面を登る。
道の向こうに、恋助と拓也、癒威の姿が見えたので、順二は苦笑した。