天使の足跡〜恋幟
3
「珍しいこともあるもんやなあ」
講義が終わった午後の食堂は、学生たちで賑わっていた。
そんな中、恋助と織理江はテーブルについたまま、目の前に立っている順二を静かに見上げていた。
「少しだけ、話を聞いてほしいんだ」
「俺、見下されてるみたいやんか。座れよ」
そっけなく促されるままに座る。
織理江は話を聞く姿勢になって、持っていたスプーンを置いた。
しかし恋助は、なおも食べ続けている。
全く話を聞く気がないのだと思い、順二はゆっくりと頭を下げた。
「ごめん」
その途端、咀嚼(そしゃく)が止まる。
箸を置くと一気に水を飲み下し、空になったコップを叩きつけるように置いて、やおら頬杖をつく。
テーブルの一点を見つめている瞳の奥に、苛立ちの色が見えた。
「はァ? 『ごめん』? 何が?」
「全部」
恋助は挑発的に笑う。
「何を今更……もう、あん時の三人の曲は、三人の曲やない。お前だけのモンになった。俺たちはもうあの曲歌われへんねやぞ」
「分かってる」
順二の頭は上がったが、目だけはずっと下を向いたままだ。
織理江は心配そうな顔で二人を交互に見た。