天使の足跡〜恋幟
「あいつも太田くんのこと、最初は女やと思ってたらしいで」
「癒威ちゃん気にしてないかなあ?」
「心配ないって! 太田くんも男とか女とか、もうこだわってないんやろ?」
その言葉に、織理江は視線を落とした。
「……こだわらなかったら、どうでもいいってことになるの……?」
「そら、なるやろ。太田くんが男言うたら男やし、女言うたら女やって信じるやろ」
パタンと、冷蔵庫のドアを閉める。
織理江は、自分よりずっと体が大きい恋助を見上げた。
「じゃあ、恋助は、あたしのこと……女の子として見てくれたことある?」
不安な顔が、そこにあった。
恋助は眉に皺を寄せていた。
「あたしが『亮太』だってこと、順二は知らないから女の子として見てくれてるけど──恋助はどうなの?」
「な、何なん突然? 織理江は女やろ、それ以外にどういう見方しろ言うねん……?」
織理江はムッと頬を膨らます。
「恋助のバカっ!!」
「いっ──てぇ!!」
とっさに投げたペットボトルが恋助の顔面を直撃したのも見ず、鞄を引っ掴んで、バタバタ玄関へ向かう。
恋助は、手で鼻を押さえたまま叫んだ。
「おい、待て!?」
織理江は思い切りドアを閉めて出て行ってしまった。
「……なんやねん……?」