天使の足跡〜恋幟
「違うよー! ケンカってほどでもないの、あたしが一方的にムカついてるだけ! だから今日は別行動!」
「何かあったのか?」
「まあ色々とね。説明すると長くなっちゃう」
「俺でよければ聞こうか?」
織理江が二つ返事で提案を受けたので、場所をCDショップからデパート内の喫茶店へと変えた。
暖色の照明が適度な明るさを保って、落ち着いた外国語のBGMと共に上品な空間を作り出している。
二人は奥の席に着いていて、飲み物と洋菓子をつつきながら会話していた。
「それで、何にムカついてんの?」
「うーん……なんかさー、ちょっと寂しかったんだよね、こんなに一緒にいるのに、なんとも思ってくれてないのが」
「つまり、恋助のことを好きってこと?」
案の定、織理江は頬を真っ赤にして、手と首を必死に振った。
「恋助が癒威ちゃんのことは『可愛い』って言うからっ……!」
「やきもち?」
「だってっ……癒威ちゃんにはそういうこと言うくせに、あたしには一言もないんだもん。女として見られてないのかな、ってがっかりしちゃって」
「それは相手が癒威だからだろ? 年下だから冗談半分でも言えるんだよ。女相手に軽々しく言えないだろ、普通」
「でも、大学にいる時だって、いっつも女の子と話してるの見るよ。なれなれしく腕なんか組んじゃってさ」
「腕組んだのって、恋助からじゃないと思う。あいつ、そういうの苦手なんだよ。人気者だから周りに人が集まって来るけど、ベタベタつるむようなタイプじゃないんだ」