天使の足跡〜恋幟
3
店内に掛けられた時計が、午後7時30分を指している。
12月24日の今日は、槍沢拓也の誕生日で、みんなで祝うと約束していた。
(急がなきゃ……)
仕事を終えた癒威は、急いでコンビニを飛び出した。
近くにある公園の傍を通った時、ふとジャングルジムの辺りに人影が見えた。
辺りはもう真っ暗で、その顔立ちはハッキリしなかったけれど、シルエットや髪に触れる時の所作から、織理江だと思い、そっと声をかけた。
「織理江さん──」
と声をかけてから、「しまった」と思った。
よく見ると、近くにもう一人。
「──と、順二さん……?」
織理江が、遠くから声を投げかけてくる。
「あ、癒威ちゃん! ごめんね、ちょっと遅れるかも。先に行って待っててくれるー?」
「分かりました! じゃあまた後で」
ひらひらと小さな手を振る織理江に、癒威も手を振って去っていく。
間もなくして、織理江は順二を見上げて言った。
「今日はありがとう。話聞いてくれて、おまけに買い物まで付き合ってくれて」
いいんだよと首を振り、織理江が買った品々の入った袋と、ケーキの箱を渡しながら言う。
「荷物、運ぶの手伝おうか?」
「大丈夫だよ。そんなに重くないし。ありがと」
順二は微笑み、指先でちょっと頭を掻いた。
「なあ」
織理江が再度、順二を見上げる。
「この前俺が言ったこと、覚えてる? 一緒に組んで欲しい、ってやつ」
「うん……」
「冗談とかじゃなくて、本気だよ」
え? という顔で驚き見上げてくる織理江を、順二は冷静な眼差しで見つめ返した。
しかし、静かに息を吸い込んだ後すぐ、僅かに目を逸らし、呟く。
その、言葉は──
「──好きなんだ。織理江が」