天使の足跡〜恋幟
「ありがとうございます、織理江さん!」
「拓也くんのためなら、なんてことないよ」
にっこり笑った織理江さんの顔。
だけど、剣崎さんには冷たいのだ。
「マジうまそー!」
「あたしたち三・人・で・食べんの!」
「なにィ!?」
「織理江さんも座りましょうよ」
剣崎さんもっとそっちに行って! などと言いながら、太田がスペースを確保してくれる。
それからはどんどん会話が弾んで、笑いが絶えなくなって。
楽しいなって、心の底から感じていた。
……でも。
剣崎さんは、もしかしたら、酔ったフリをしていただけだったのかもしれない、と僕は思う。
時々、考え込んだようにボンヤリと一点を見つめていたり、そうでない時は織理江さんの横顔を眺めていたりしたことに、気付いてしまったから。
何となくだけど僕も、隣に座った織理江さんから、いつもと違う匂いを感じていた。
嗅覚で感じ取ったものではなくて、ただの雰囲気だけれど。
みんな一緒に笑っているのに、織理江さんの空間だけが切り取られたように、時間が遅く流れているような感じがした。
剣崎さんもそれに気づいていたのだろうか……。
──そんなことを考えながら剣崎さんを見ていたら、不意に目が合った。
やっぱり剣崎さんは、いつもの太陽みたいな笑顔をした。
「どないしたん?」
「何でもないです!」
つられて僕も満面の笑みを返した。
そしてまた、思う。
くよくよ悩んだり、愚痴を垂れたりする僕と違って、剣崎さんは大人だな、と。
誰かのせいにしたり、自分を偽ったりしないで、こんなにも笑っていられるんだから。