天使の足跡〜恋幟
「僕の成績知ってるだろ? わざわざ挑戦状叩きつける気にもなれないよ。……まあ、太田のおかげで、ちょっとは成績上がったけどさ」
お互いに笑い合う。
それからしばらくして、太田が思い出したように言った。
「そういえば、実家には帰らないの? 冬休みなのに」
「あー……うん、帰るよ、明後日、残念ながら加奈と一緒に」
「久々の帰省なんだよね? ゆっくりしておいでよ」
僕は頷いて曖昧に笑う。
爪先に視線を注ぎながら、いろんなことを思い巡らした。
本当は、焦っていた。
けれど、僕は太田みたいに要領のいい頭脳も、勉強法も知らないから、今から頑張ったって太田と同じ学校に入れるかさえ怪しい。
危うい目標にしがみついて、現実を見ているフリをして人一倍頑張ることで、夢を追っていると自分に信じ込ませているだけだ。
全ては、大学に入って、また歌を歌うためだと……。
しっかり地に足がついている太田や加奈と違って、僕だけが取り残されていくような挫折の気持ちを、すぐ傍に感じていた。