天使の足跡〜恋幟










「出かけてくるわ」

「えっ、今から?」


織理江の返答はもっともだった。

たった今、拓也と癒威が帰ったばかりで、しかも10時半を過ぎているのに恋助は出かけると言うのだ。

しかも、ギターを持って。


「あたしも一緒に行く」


玄関まで彼を追いかけて言うが、


「一人で考えたいねん」


と、なんの躊躇もなく往(い)なされた。

靴に踵を入れて、出がけに、


「もし帰るんやったら、鍵、頼む。合鍵あるやろ」

「あ、うん……」


返事も最後まで聞かずに、ドアが閉まった。






* * * * * * *






暗闇の河川敷に、冷たい弦の音が響き渡る。

哀愁をまとう旋律と共に。



客は誰もいない。

客を引くための曲でもない。

かといって、誰かのために奏でる曲でもない。

自分の悶々とした思いを鎮めるための歌。

スコアもない、メモもない。

ただ衝動的に気持ちを歌にして、吐き出す。

それしか拠り所がなかった。



歌いながら、考える。



あの時──織理江と順二がより親しくしていることを知った時、確かに動揺していた。


二人の間に『仲間』としての感情以外の何かが発生し始めたのも分かっていた。

他人事だと思い込もうとしてきたが、それは時間の無駄だったことにようやく気付いた自分がいる。
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