天使の足跡〜恋幟
第6章:変わりゆくこと
1
「ここに決めたのね?」
「はい」
癒威は、視線を揺るがすことなく頷いた。
職員室までわざわざ出向いた態度にも、希望進路にも、担任は大満足だった。
彼の成績なら何の心配もない。
担任は進路希望の紙を受け取って、にっこり笑う。
「進路に向かって、頑張って」
頭を下げて、癒威は職員室を出た。
「太田くん」
教室に戻る途中で加奈に呼び止められた。
バレー部の練習着のままだ。
今は冬休み中であるから、部活のために来たのかもしれない。
「太田くんも学校に来てたんだね!」
「咲城さんは、これから部活?」
「うん。……あの」
加奈は一度自分の髪に手を当てて、躊躇いがちに話し始めた。
「今、時間あるかな? 話、聞いてくれる?」
「いいよ。どうしたの?」
「太田くんって、三谷くんと仲良しでしょ? ……三谷くん、普段はどういう人なのかな?」
突然の話に多少の驚きを覚え、疑問を感じる。
加奈が男子生徒のことを話すなんて、珍しい。
「どうって……見ての通りだよ。部活に真面目で裏表のない──。で、三谷がどうかした?」
「うん……」
と頷いた後、しばらくは沈黙が続く。
あまり人が通らないといっても、廊下では話しづらいことなのかと思い、
「他の所で話す?」
と促してみたけれど、彼女は首を振り、
「大丈夫」と言い、さらに「誰にも言わないでいてくれる?」とつけ加えた。
癒威が約束を飲むと、加奈は深呼吸をしてから、弱々しい声で、
「あのね、……告白、されちゃったの」
と話し出す。