天使の足跡〜恋幟
癒威にとってみれば当然のことだったが、三谷の成長ぶりには驚かされた。
「そんなこと言えるか!」と赤面していたあの夏から、覚悟を固めてきたらしい。
「私、三谷くんとあまり話したことないから分からなくて……。だからって、こんな相談したら三谷くんが可哀そうだよね」
クスクスと笑ってしまった。
加奈がそんな配慮をする前に三谷は、癒威や丹葉や他の連中に相談してしまっている。
『咲城と話したことあるか』とか、『彼氏いるのか』とか、『どんな物が好きなんだ』、『誰と仲が良いんだ』……など、コソコソ嗅ぎ回っているのだ。
一見したらストーカー男だが、愛しくてやまない加奈の理想の男になるためには、どんなことも厭わない──そんな殊勝な奴なのである。
「三谷なら咲城さんのこと、誰よりも大切に考えてくれると思うよ」
「太田くんも、三谷くんに相談されたりした?」
「まあね。本当に悩んでたんだよ、あいつ。気まずくなりたくないからって今まで渋ってたらしいけど。告白したってことは、腹据えたんだろうね」
加奈は恥ずかしがるように顔を両手で覆い隠した。
「どうしよう……」
「もしかして他の人が好きとか?」
「ううん、そうじゃないの。三谷くんって見た目はヤンチャだけど、本当は良い人だと思うし、付き合ったら楽しいんだろうなって思うけど、なんて答えたらいいんだろ……」
二人がそんな風に悩んでいる姿を頭の中で並べてみると、とても微笑ましい光景だった。
まさに“お似合い”という言葉がピッタリだ。
自然に笑みが浮かんで、こっちまで恥ずかしくなってくる。
「一言でいいんじゃない? 咲城さんの返事が聞けるだけで喜ぶよ、あいつ」
「そ、そうかなあ!?」
「そうだよ」と癒威は大きく頷いた。
「それじゃあ、後で話してみようかな。ありがとう太田くん! またね!」
真っ白な頬をほのかに染めて軽く手を振り、長い廊下を小走りに駆けていった。
別に走る理由もないはずだけれど、照れを紛らわすためには、きっと走らずにはいられなかったのだと思う。