天使の足跡〜恋幟
具合が悪いって、何? 急病?
勝手に重篤な状態を想像して、織理江は携帯電話を握りしめる手に力を込める。
「教えてくれてありがと、恋助のとこ行ってみるね!」
とは言ったものの、長い髪は下ろしたままで、部屋着にルームシューズというスタイルだ。
おしゃれ好きだから、いつも出かける時は凝ったファッションをするのだが、今は適当に着替えて、髪も下ろしたままで部屋を飛び出した。
* * * * * * *
ガチャガチャガチャッ!!
ドアノブが……ドアノブが勝手に回ってる?
熱による幻聴……いや、確かに音がした。
恋助はベッドからのろのろ起き上がって、玄関を見やる。
シーン……と静まり返った玄関。
なんだ、やっぱり空耳かと思っていたら、今度は「ピンポーン」と呼鈴が鳴る。
「誰やねん、ほんま……」
普通ガチャガチャよりピンポンが先やろ!
と内心で突っ込みながら、だるい体で玄関まで歩いていく。
その間にも呼鈴は連打されて……。
この野郎。
ちょっと出てしばいたろか。
苛立ちもピークに達し、小窓も覗かず渾身の力でドアを開け放つ。
額に青筋立てて、早口に吐き捨てた。
「じゃかぁしーねん!! 勝手にガチャガチャしやがってこの──、あ……」
少し視線を下げたら、見慣れた織理江の姿がそこにあった。
あまりに拍子抜けして、互いにしばらく硬直する。
「……お、織理江……!?」
「ごっ、ごめん、うるさかったよね。急いで来たから合鍵、忘れちゃって……」
「あー、いや……ええねん、……まぁ、どうぞ」
と苦笑する。
妙にかしこまってしまうのは、さっきの粗相を決まり悪く感じているからだろう。