天使の足跡〜恋幟
そう返事をして、顔を逸らす。
ずっと片思いしていたけれど、いざ聞かれると尻込みしてしまう自分がいた。
過去が邪魔する。
最初から普通の女の子だったら素直になれたかもしれないけど、元々男の自分がそんなことをしたら、恋助の経歴に傷がついてしまう──そう思った。
恋助は自嘲気味に、ふっと笑う。
「やっばり、俺じゃアカンねんな」
違う、駄目なんかじゃない。
そう思うのに、言葉になって出てこない。
『恋助が好きだ』という気持ちを伝えたいのに、過去と現在との狭間で身動きとれなくなっている。
そのまま時は流れて、恋助は壁側に顔を向けた。
「順二んとこ、行ったらええんちゃう?」
「は──?」
その一言で、狭間に立っていた織理江は見事に転ばされた。
「な……何で順二が出てくるのよ……?」
「この間、順二とおったとこ見ててん。順二のこと、好きならそう言って」
いつもと変わらない、陽気な声で彼は言った。
織理江は眉を寄せた。
あの時、少しは自分を見て欲しかったから距離を置こうとしただけだ。
そこで偶然……本当に偶然に、順二に会っただけなのだ。
順二のことが好きな訳じゃない。
恋助のことが嫌いになった訳でもない。
「……っ」
織理江の潤み声に気付いたのか、恋助が再び顔を向ける。
彼女の涙を見て、困った顔をしていた。
織理江は首を横に振って、静かに叫ぶ。
「恋助が嫌なんじゃないの……! あたしなんかと一緒にいたら駄目なんだよ……! 見た目はこんなでも、ホントは……男……なんだから……」
涙が溢れて、一筋、頬を伝っていく。
恋助は溜め息をして、ベッドの上に重い体を起こした。
面倒くさそうに頭を掻く。
「何で泣くんかなぁ……」
人の気持ちも知らないで、よくそんなことが言えるものだ。