天使の足跡〜恋幟
「織理江さんはどうやって作曲するんですか?」
「そーだなあ……、恋した時か、失恋した時に、わ~ってなって作るの!」
「恋!?」
素っ頓狂な声を上げる。
「うん。そういうのって表しやすいのよ。哀しいとか、切ないとか……癒威ちゃんは、そういう時ない?」
「あ……」
ふと、槍沢拓也の姿が浮かんだ。
学校の帰り道で偶然出会って、成り行きで夏の間生活を共にした人物。
一番の親友で、一番大切な人。
自分をつまらない日常から救い出してくれた、かけがえのない存在だった。
そういえば、あれからずっと会っていない。
声も聞いていない。
電話くらいしようとも考えたけど、それぞれの生活リズムを気遣ってなのか、遠慮していた。
メールをしても、次の日に持ち越してしまうこともしばしば。
今頃どこで何をしているんだろう……
「その顔……さては恋しい人でもおるんやろ?」
「え!? あっ、そのっ、恋人っていうのとは違いますけど」
何を照れているのか自分でもよく分からないが、考えると調子が狂ってしまう。
「その人のことを考えて、想うことをそのまま曲にする……それがあたしの歌かなあ」
そう織理江は言った。
「なるほど……」
癒威は、自分のギターを抱きしめ、微笑んだ。
そして、拓也の顔を思い浮かべる。
──会いに行っても、いいかな? 槍沢くん……