天使の足跡〜恋幟
夏は戸外で汗だくになって駆け回り、冬は顔を真っ赤にして雪を掻き分けた。
互いに一人っ子だったから兄弟のようにケンカしたり、腹が割れるくらい笑ったりして、疲れきって船を漕ぐまで遊んだものだ。
それがいつしか、ぱったりと終わってしまったのだ。
でも僕は、その訳を思い出した。
「中学生になった途端に、加奈が関東に引っ越したからだよ。
しかも、塾とか部活とか忙しくなってさ、時間が合わなくなったんだ」
「ああ、そうだったよね。おじいちゃんの家に行けば会えるかな、と思ってたけど、タクはいなかった。どんな様子だったか、後からおじいちゃんに聞かされてたの」
「僕も。加奈はいないけど、ばあちゃんとか、親戚のおじさんとかに加奈の話されてさ。あんまり僕と比較するもんだから、参ったよ」
加奈は困った顔をする。
「私だって同じだよ? 曾おばあちゃんの命日だったかな、親戚の人がたくさん集まった時に、みんながタクと私を比べるの。……ふふっ! でも、あれは本当に可笑しかったなあ」
「おかしい? 何が?」
列車が動き出す。
加奈は僕の方を少しだけ振り向いて、苦笑して言った。
「最後はみんな、『タクの良い嫁さんになるぞ』って言うんだもん」
ドキッとした。
驚きのあまり僕が目を丸くしているところに、加奈は続けて言う。
「私も、小学校の頃までは、将来タクと結婚するんだろうな、って思ってた。好きな男の子って言ったらタクしか知らなかったし。
でも今は、兄弟みたいだなって思うんだ」