天使の足跡〜恋幟
苛立ちのはけ口として、エビフライを箸でブスッ、と刺した。
それを半分食いちぎって咀嚼しながら最初に思い浮かべていたのは、向こうの部屋に置いてきたギターのことだ。
まずはギター。
次がバイト。
その次が太田と遊んだり、剣崎さんや織理江さんと会ったりで、学校の友達とつるむ──で、最後が勉強。
僕の中ではそういう位置づけだ。
そういえば、彼女──ではないけれど、初恋はあったかもしれないと思い返す。
その象徴としてぼんやり浮かんだのは、なぜか太田の顔だった。
ああ、そうか。
初めて会った時、女の子と間違ったんだっけ。
太田が嫌がると悪いから言わないけど、今だって十分、女の子に見えるから仕方ないことだ。
声に出さず独白してから、小首を傾げる。
今度は白米を咀嚼しながら考えた。
いや、待てよ。
太田に会うよりも前──1年生の頃、同じクラスの菅野が可愛いって、田中と一緒になって話したこともあった気がする。
あれって、初恋の部類に入るのか?
だけど、菅野を思い浮かべようとすると、どうしても一瞬、笑顔を見せただけで消えてしまう。
そう、閃光のように。
比べるのも変だけれど、太田のことはムービーでも見ているかのように鮮明に浮かぶ。
常に顔を突き合わせているからだろうか?
本当に不思議なことだった。
僕が無言で思案に暮れていると、母が唸った。
「もう、男同士の秘密だなんて、やめてよね? お母さんだけ仲間はずれなんて」
「後で話すって」
そっけなく返事をして、僕はまた黙考する。
太田も家に帰っただろうか。
彼は家族内で、どんな会話をしているんだろうか。
──ああ、また太田だ。
きっと長く良すぎたせいだ。
太田の名前が、思考に染み込んでしまったに違いない。