天使の足跡〜恋幟
2
ブーッ、ブーッ、ブーッ……
携帯電話が、広げたノートの上で少しずつ前進している。
僕はペンをテーブルに置いて、携帯電話を取った。
ディスプレイに表示されている、自宅の番号。
受話ボタンを押してからだいぶ間を置いて、耳元に近づけた。
「はい」
『拓也? そっちはどう? 上手くやってるの?』
相変わらず明るいの母の声。僕は思わずふっと笑ってしまった。
「大丈夫だよ。そっちはどうなの? もう寒い?」
『今、雪が少し降ってるよ。でも、積もるにはまだ早いかな』
「そっか」
『夏休み、帰ってこなかったでしょ? 冬休みには来られるかなと思って。私もお父さんも忙しいけど、正月くらいは会いにきてほしいな』
「まだ先の話だろ? その時になってみないと分からないけど……予定に入れておく」
『本当に? 良かった! もし帰って来られるようなら──』
「うん、分かってる。電話するよ。じゃあね」
終話のボタンを押し、テーブルに置いた。
そして冷蔵庫に掛けてあるカレンダーに視線をやり、太田と別れてからの時間を実感する。
久しぶりにかかってきた電話は、随分先に会うことになる母からだったとは。
嬉しくないわけじゃないけど、内心、少し寂しかったりする。
もう少しで2年生も終わりだ。
3年生になったら、僕はどうしたらいいんだろう?
この時世、進学なしでは通らない。それは『歌う』という夢を持っている僕も同じ。
いつどこで面倒があって、画餅に帰したということにもなり兼ねないのだから、それなりの準備は必要だ。
クラスで進路を明確にしていないのは、おそらく僕だけだ。
早く大学を決めなくちゃいけないし、受験対策だって今でこそ忙しくなってくる。
そうすると……
──まともに歌っていられる時間なんてないじゃないか……