天使の足跡〜恋幟






ブーッ、ブーッ、ブーッ……


携帯電話が、広げたノートの上で少しずつ前進している。

僕はペンをテーブルに置いて、携帯電話を取った。
ディスプレイに表示されている、自宅の番号。

受話ボタンを押してからだいぶ間を置いて、耳元に近づけた。


「はい」

『拓也? そっちはどう? 上手くやってるの?』


相変わらず明るいの母の声。僕は思わずふっと笑ってしまった。


「大丈夫だよ。そっちはどうなの? もう寒い?」

『今、雪が少し降ってるよ。でも、積もるにはまだ早いかな』

「そっか」

『夏休み、帰ってこなかったでしょ? 冬休みには来られるかなと思って。私もお父さんも忙しいけど、正月くらいは会いにきてほしいな』

「まだ先の話だろ? その時になってみないと分からないけど……予定に入れておく」

『本当に? 良かった! もし帰って来られるようなら──』

「うん、分かってる。電話するよ。じゃあね」


終話のボタンを押し、テーブルに置いた。

そして冷蔵庫に掛けてあるカレンダーに視線をやり、太田と別れてからの時間を実感する。

久しぶりにかかってきた電話は、随分先に会うことになる母からだったとは。

嬉しくないわけじゃないけど、内心、少し寂しかったりする。


もう少しで2年生も終わりだ。

3年生になったら、僕はどうしたらいいんだろう? 


この時世、進学なしでは通らない。それは『歌う』という夢を持っている僕も同じ。

いつどこで面倒があって、画餅に帰したということにもなり兼ねないのだから、それなりの準備は必要だ。

クラスで進路を明確にしていないのは、おそらく僕だけだ。

早く大学を決めなくちゃいけないし、受験対策だって今でこそ忙しくなってくる。
そうすると……


──まともに歌っていられる時間なんてないじゃないか……

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