天使の足跡〜恋幟
『どんな奴か、気になる?』
「まあ、ちょっと」
『同じクラスの三谷って奴。バスケやってて、背は槍沢くんよりも高くて』
「そこ比べる必要ないだろ!」
身長のこと気にしてるって知ってるくせに。
苦笑しながらつっこむと、ゴメンゴメン、と太田は笑っていた。
『三谷はね、カッコイイんだよ。いつも咲城さんのこと考えてて、一生懸命で、一途で』
「へぇ……そうなんだ……へぇ……」
『その感じだと、納得してないね?』
「別に。何か加奈のヤツ妙に大人びてたから、何か……よく分かんないんだけど、何か嫌で……」
『さっきから「何か」って言い過ぎ!』
また笑われた。
動揺してるのがバレている。
『でも、「何か嫌」っていう気持ち、分かる』
「本当?」
『うん。自分も、姉さんに恋人がいるって知った時がそうだった。秘密にされてたことも「茅の外」って思ってショックだったし、なんか急に他人になっちゃった感じがしたんだ。‘’自分の‘’姉さんが、‘’他の人の‘’になっちゃった感じ、……よく分からないけどね』
ほっとした。
太田も感じたことがあるんだ、って思ったら痛みが軽くなった気がした。
『そうだ、そっちは雪、積もってたりする?』
ブラインドの隙間に指を入れて窓の外を覗くと、ちらちらと白い影が見えた。
「地面ちょっと白くなってる。かまくら作るには足りないけど」
『それそれ! そういうの、一回やってみたい』
「雪合戦とか?」
『うん、雪だるま作ったりとか!』
太田の陽気な声を聞いて僕は笑った。
案外子供っぽいところもあるんだなあ、なんて。
「今度遊びにおいでよ」
『行く行く! 楽しみにしとく!』
楽しみだ、本当に。
雪に触れた時の太田の反応とか、どんな顔するんだろうとか。
想像して、一人でワクワクした。
電話を終えた後、さっきまでの物足りなかった気持ちが嘘のように満ち足りていた。
早くあっちに戻って、太田に会いたくてたまらなくなるほど、僕の思考は彼のことばかりになっていたのに、その理由に全く気付かずにいた。