天使の足跡〜恋幟
3
織理江は玄関のドアを開けて、「恋助」と呼びかける。
靴を脱いで中へと進んで行くと、彼はフローリングの床にあぐらをかいて、テレビゲームをやっていた。
「具合どう?」
織理江を見上げると、マスクを顎に下げて答える。
「熱下がったのはええけど……」
手荒にコントローラーを放り投げ、叩くように本体の電源を切る。
「暇過ぎてしゃーない!」
声の質は数日前より悪化していて、ガサガサしていた。
言葉の所々で声が出たり出なかったり。
マスクを下げていなかったら、きっと聞き取れなかっただろう。
織理江は困った風に笑って、隣に座った。
「かわいそー。はい、これあげる」
カバンの中から取り出したのは、箱に入ったのど飴。
気に入っていていつも買っているメーカーのものだった。
「おー!」
「それから、前貸してって言われてた漫画と、ゲームね」
弟から拝借してきたんだと言いながら、単行本3冊とゲームソフトが1本。
「圭太くんに、おおきにって伝えといて」
「それからCDも。あとレポート一緒にやろうと思って──」
カバンから様々な物を出す様子を見て、恋助の口は開きっぱなしになっていた。
「まるで、どら焼き食いネコのポケットやな」
「暇つぶしになるでしょ?」
「ホンマにありがとー。けど、持ってきてもらっといてアレやけど、あんまり寄ると風邪移るで?」