天使の足跡〜恋幟
そう言った後、わざとらしく威張った顔をしてみせた。
『その証拠に、私にはちゃんと、あなたの歌が聞こえたでしょう?』
癒威は笑って、「本当だ」と答えた。
自分で言っていておかしかったのか、瑠夏も堪え切れずにちょっとだけ噴き出して笑った。
『嘘じゃないよ! だって、目だけが頼りだもの。周りの音になんか惑わされないで、自分が見たいものだけを見るの。いつだってね!』
そんな彼女を、癒威は素敵だと思った。
外見的な美しさだけではなくて、儚さの中に見えるたくましさというか、あっさりした言葉の中に見える芯の強さというか。
内側から滲み出る輝きのような魅力を感じたのだ。
静かな会話を続ける二人の元に、男性2人がやってきた。
「瑠夏!」と、男性が彼女の肩を叩き、
「待ってろって言ったのに、一人で先に行くなよな、心配しただろ」
と手話で注意をしている。
その隣にいる、もう一人の男性を、癒威は知っていた。
癒威は思わず声を上げる。
「あれ? 兄さん!?」
「癒威! こんなところで会うなんてな」
二人の会話を聞いて、瑠夏と男性は不思議そうな顔をした。
ギターをしまい込む癒威と、その兄・翼を交互に見ながら、男性は尋ねた。
「翼の知り合い?」
「弟の癒威だよ」
はじめまして、と癒威は会釈すると、男性の方も会釈を返す。
「翼からよく話は聞いてるよ」
翼が癒威に紹介した。
「俺の友達の朋絋(ともひろ)と、その妹の瑠夏(るか)さん」
なるほど、兄妹だったのかと独白していると、瑠夏が言った。
『うちの兄さんと癒威さんのお兄さんが友達だったなんて、ビックリ』
「え? お前たちも友達なのか?」
と言った朋絋が、今度は癒威と瑠夏を見た。
癒威と瑠夏は顔を見合わせて口をそろえた。
「さっき会ったばっかりだけど」
翼と朋絋はよく一緒に遊んでいるくらい仲が良く、互いに妹や弟がいることまで知っていたのに、今の今まで、本人同士は知る由もなかったのだから驚きだ。