天使の足跡〜恋幟
それから、瑠夏が癒威を見た。

唇は動かさず、手話のみで、


“次は、もっと癒威さんとお話したいです”


と伝えると、癒威は照れたように微笑んで頷いた。


「それじゃあ、気を付けて帰れよ」「おやすみ」などと、手を振って2組の兄弟は分かれていく。



それからすぐに、癒威は翼に言った。


「兄さんは、瑠夏さんとは何度も会ったことあるの?」

「まあな。トモの家は花屋だって言ってたろ? 瑠夏さんは店の手伝いしてるから、遊びに行く時は必ず会うんだ」


ふーん、と長く細く癒威が返事をしたのを聞いて、翼は尋ねた。


「キレイな子だろ? 瑠夏さん」

「うん……」

「お、いつになく素直だな」

「うん……また会えたらいいなと思って」


「きっと会えるよ、いつだって──」という翼の言葉尻に、


「癒威さん──っ!」


と大きな声が重なった。

周りが振り返るほどの渾身の一声に、弾かれたように癒威は振り返った。

少し離れた所から、瑠夏が小走りに癒威の方へ駆けてくる。
癒威も彼女を迎えに走り出す。

サヨナラをしたばかりなのに、ちょうどまた店の前で二人が再会した。


「あのね──」と、手話は使わず、ハッキリとした声で言った。


「やっぱり、どうしても今、渡しておきたくて」


彼女は紙を差しだした。

癒威はそれをゆっくり受け取って眺める。

上下に可愛らしいデザインがプリントされており、真ん中にはメールアドレスが走り書きされていた。

その右側が所々破けていたことから、手帳のどこかのページを裂いて、急いで書いたのだろうと分かった。


もう一度視線を彼女に向け、目が合うと、癒威は喜んで手話と共に伝えた。


「ありがとうございます! 必ず連絡しますね!」


その返事を聞くと、瑠夏はもう一度笑顔で『おやすみなさい』をして、遠くで待っている友宏の所へ帰っていった。

癒威も翼の元に追いつくと、兄が呟く。


「ほら。またすぐに会えそうだな」

「うん!」


心から喜びに満ちた返事をした。


本当に、嬉しかったのだ。

彼女のような、魅力的な人に会えたことが。












  
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