トーキョークラブ
学内カフェ脇の廊下から角を曲がったところで、僕は彼女に声を掛けた。
小柄でしかもこんなにも大きなキャンバスを抱えているというのに、彼女は足早にスタスタと歩いていた。
「あのっ!」
僕のおどおどとした声に、彼女は綺麗なアーモンドのような目をしばたたかせた。
「…て、手伝うよ」
「えっ?なんで?」
僕は小さな彼女を見ながら
苦笑いを向けた。
「あっ、あのさぁ…。この前、土手で僕の絵を書こうとしてたよね?」
彼女は目をくりくりとさせながら、僕の顔をじっと見て、それから何かを思い出したかのように「あぁ~」と言った。
「思い出した?」
「ううん、思い出してない。でも土手でスケッチしてたことは確かね~。それが何か?」
キュッと口角を上げた彼女の頬には、くっきりとしたえくぼがひとつ。
僕もつられて笑った。