トーキョークラブ
なんだ、覚えてないのかよ、と思いつつ僕は彼女に話を続ける。
「実は、君にモデルになってもらいたくて」
「モデル?」
「モデルっていうか…。写真を撮らせてほしいんだ。僕、写真学科でカメラマンを目指してて…」
僕がそこまで言うと、彼女はまた「あぁ~」と言った。
今度は本当に何かを思い出したようで、僕のことを見ながらちょっぴり得意気に彼女は笑った。
「思い出した。君、久野清二の息子でしょ。わたし、あなたのこと知ってる」
「へっ?」
「きゃーっ、わたし凄くない?久野清二の息子からモデルに頼まれるなんて!」
「い、いやちょっと待ってよ…」
急にテンションを上げてくるくると回りながら廊下をスキップする彼女を、僕は大きなキャンバスを脇に抱えて追った。
「わたし、油絵学科の佳世!」
子供みたいな無邪気な笑顔を僕に向けた彼女、佳世はいつまでもロングスカートを揺らしていた。