トーキョークラブ
カラスの鳴き声をヘッドフォンで遮り、携帯電話をいじる。
秋が近づいていると聞いたが
確かに朝は冷え込む。
身を縮ませながら見たメールは、望美からの一件だけだった。
「あっ、お帰りなさい」
玄関の扉を開けると、トーストの焼けた匂いと共に望美がオレを出迎えた。
オレはヘッドフォンを外しながら、戸惑いつつも「ただいま」と言った。こんな言葉、何年ぶりに言っただろう。
「仕事、今までやってたんだ…。意外と大変なのね」
望美は焼きたての、ちょっと焦げているトーストにジャムを塗りながらそうつぶやいた。
とりあえずオレは
ソファーに倒れ込むように座る。
「朝ごはん、食べる?アタシね、結構食糧買ってきたんだ。リョウの冷蔵庫はビールしか無かったから」
「あぁ…。ごめん」
ソファーに寝そべり、眠い目で天井を見つめながら煙草をぼーっと吸う。
今のオレは、放心状態だ。