トーキョークラブ
樹というのは、僕の名前。
梨絵は僕の彼女で───いや、あと何分後かには“元”彼女になるかもしれないが。
僕らはここ、東京の
美甘美術大学という私立美大の学生である。
海外の有名な建築家がデザインした、それはそれはモダンで、校舎自体が美術品のようなおしゃれな大学。
そんな大学の雰囲気には
全く似合わない怒鳴り声を、泣き声を、梨絵はためらいもなく上げていた。
事の発端は、昨日の夜のこと。
梨絵が、作りあまってしまったビーフシチューを僕のアパートに届けようとやって来たとき。
僕が女と一緒に部屋から出て行くのを、目撃したというのだ。
まあ、それは事実だ。
しかし、その女というのは
6歳上の実の姉貴。
フリーランスとして世界中を飛び回る、写真家だ。