トーキョークラブ




亡き親父に代わって僕に写真を教えてくれた、いわば僕の師匠。



姉貴の撮る写真もまた、素晴らしい。

彼女が写す世界中の人々の表情は、何気ないものだけれども何か引き込まれるものがある。




そんな姉貴が半年ぶりにアフリカから帰国してきて、写真展を開いたのだ。


それが昨日の夜だった。








「もう、樹のことなんて信じられない。さよなら」




梨絵はそんなに大きくもないキャンバスと花柄のカバンを持って、僕の前から去ろうとした。



カフェにもまた
人々の話し声が響き始めている。




濡れたメガネを外そうとしたその時、数メートル歩いた梨絵は立ち止まり、僕のほうを睨みつけた。




「……追いかけて来ないの?何も言うことはないの?」


「えっ?」



もう終わったのだと思っていた僕に、梨絵が拍車をかけてきたことに驚いた。



「浮気、認めるってこと!?」




僕はまた、黙り込む。


再び鬼のような形相になりつつあった梨絵は、「完全にさよならね!」とセリフを吐いて、出て行った。








< 20 / 176 >

この作品をシェア

pagetop