トーキョークラブ
亡き親父に代わって僕に写真を教えてくれた、いわば僕の師匠。
姉貴の撮る写真もまた、素晴らしい。
彼女が写す世界中の人々の表情は、何気ないものだけれども何か引き込まれるものがある。
そんな姉貴が半年ぶりにアフリカから帰国してきて、写真展を開いたのだ。
それが昨日の夜だった。
「もう、樹のことなんて信じられない。さよなら」
梨絵はそんなに大きくもないキャンバスと花柄のカバンを持って、僕の前から去ろうとした。
カフェにもまた
人々の話し声が響き始めている。
濡れたメガネを外そうとしたその時、数メートル歩いた梨絵は立ち止まり、僕のほうを睨みつけた。
「……追いかけて来ないの?何も言うことはないの?」
「えっ?」
もう終わったのだと思っていた僕に、梨絵が拍車をかけてきたことに驚いた。
「浮気、認めるってこと!?」
僕はまた、黙り込む。
再び鬼のような形相になりつつあった梨絵は、「完全にさよならね!」とセリフを吐いて、出て行った。