トーキョークラブ
閑静な住宅街を歩いて、商店街を歩いて、裏路地を歩いて。
フィルムを巻き取りながら石段を上がると、青々とした土手とせせらぐ川が広がり、人々の笑い声が響いていた。
サイクリングをする人。
草野球をする大人、サッカーをする少年、肩を寄せあい語らう恋人たち。
1つの世界をぎゅっと縮めたようなこの温かい空間。
僕は音楽を止めて
自然な生活音を聴きながら、シャッターを押し、僕は土手を降りた。
風を感じながら
一眼レフのレンズを覗く。
緑の草の絨毯に寝転んで、レンズ越しに流れる雲を見ていたときだった。
「ねぇ、そのままでいてくれる?」
透き通るような
さらりとした声が聞こえた。
驚いて起き上がり、後ろを振り向いたが…誰もいない。
と、思ったら
声の主は僕の足元にしゃがんでいた。
「あーあ。そのままでいて、って言ったのに」
僕の足元で、ふてくされたような表情をした彼女は、小さなため息をついた。
「え…あ……、ごめんなさい」
僕がぎこちなく頭を下げると、彼女はふわりと微笑んで立ち去った。
腰まで伸びる長い栗色の髪、水色のロングスカートを風になびかせて消えていく後ろ姿。
スケッチブックを脇に抱えて遠ざかる彼女を、僕はレンズの中に納めた。