トーキョークラブ
僕は、1ページずつ
ゆっくりと写真集をめくっていく。
白神山地のブナの原生林、オーストラリアのグレートバリアリーフ、ボルネオの海、北欧の花、サバンナの夕日…。
親父が残したそれらの写真は、CGのように色鮮やかで、それは息を飲むほどだった。
「この表紙を見た瞬間にさ、すげぇ鳥肌が立ったんだ。こんなにも美しい空を撮る写真家が、世界にいたのかって」
九野清二が僕の父親とは知らない達彦は、彼がもう、この世に存在していないことも未だに知らぬままであった。
達彦は、グラデーションの空を僕に見せてつぶやいた。
「俺、この人と会ってみたいなぁ。願わくばアシスタントにでもなりたいよ」
「アシスタント…」
「おう。技術を盗む、って言ったらなんだけどよ。どうやって写真を撮るのか、教えてもらいたい」
僕は、達彦に真実を言うべきか、いや、本当は言わなければならないのだが…。
なぜか戸惑ってしまい
九野清二の死を、僕から伝えることはやめようと思った。