トーキョークラブ






─────「ちょっと!早く13番持ってきてよね」




「はい、すみません」





午後、美容室へ出勤すると
すぐに私は、先輩のアシスタントにつかされた。


急いでカラーリング剤を作り、先輩へ持って行く。




だけど、ありがとうなんて一言も言われなくて、それからはずっと雑用。


今日もそんな1日で
終わるんだろうな、と思っていたそのときだった。






「愛ちゃん、ちょっと」



店長がさりげなく私を呼び、私は恐る恐る店の裏へと向かった。




「店長、あの……」


「愛ちゃん、実はね。今度知り合いの美容師が表参道にサロンを開くそうなの」


「はい」




店長は
私の目をじっと見て離さない。


逆に私は、目を反らしてしまった。




だけど。





「愛ちゃん、ここのみんなとは合わないみたいだし…。だけど、マネキンのカットとかを見たら、ずいぶん腕も上がってるじゃない」


「いやぁ……」


「それでね、このサロンで美容師を募集してるのよ。愛ちゃん、働いてみない?」





一瞬、時が止まったようだった。








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