六天楼(りくてんろう)の宝珠
「そうおっしゃられましても。こればかりは、私の一存ではどうにもなりません。御館様はお忙しいのでしょう」
槐苑は彼女を睨み付けた。
「女としての努力が足らないのでは、と申し上げているのです」
──またか。
槐苑の問いは、単に「寝泊りしたのか」という意味ではない。
つまり「肉体関係を持ったのか」と聞いているのだ。
領主の家にはこのようなことを気にする人間は多い、それは翠玉も頭ではわかっている。当主が妻に手を出す出さないは、跡継ぎにも関わる重大な問題だからだ。
碩有は今のところ翠玉以外に女性はないが、この先もし他に寵愛する女が出来れば話がややこしくなる。
六天楼ご意見番としての槐苑は「まず正夫人に第一子を。それが争乱なく収まる方法じゃ」と常に言っていた。
言いたいことはわかっているのだが──
翠玉は唇を噛み締めた。
「聞けば、御館様は毎日こちらへはおいでになるそうではありませんか。夕餉(ゆうげ)を召して、貴女と語らった後自室にお帰りになるとか。御館様のような成年の男子に、一人寝を続けさせるなど以ての外。奥方様は確かにお美しいですが、たまには紅をさしたり香を焚いたり、しどけない格好なぞしてみてはいかがです? 若いお二人のこと、一つ褥に入ってしまえばあちらの方も──」
「槐苑様! 言い方が露骨ですっ」
槐苑は彼女を睨み付けた。
「女としての努力が足らないのでは、と申し上げているのです」
──またか。
槐苑の問いは、単に「寝泊りしたのか」という意味ではない。
つまり「肉体関係を持ったのか」と聞いているのだ。
領主の家にはこのようなことを気にする人間は多い、それは翠玉も頭ではわかっている。当主が妻に手を出す出さないは、跡継ぎにも関わる重大な問題だからだ。
碩有は今のところ翠玉以外に女性はないが、この先もし他に寵愛する女が出来れば話がややこしくなる。
六天楼ご意見番としての槐苑は「まず正夫人に第一子を。それが争乱なく収まる方法じゃ」と常に言っていた。
言いたいことはわかっているのだが──
翠玉は唇を噛み締めた。
「聞けば、御館様は毎日こちらへはおいでになるそうではありませんか。夕餉(ゆうげ)を召して、貴女と語らった後自室にお帰りになるとか。御館様のような成年の男子に、一人寝を続けさせるなど以ての外。奥方様は確かにお美しいですが、たまには紅をさしたり香を焚いたり、しどけない格好なぞしてみてはいかがです? 若いお二人のこと、一つ褥に入ってしまえばあちらの方も──」
「槐苑様! 言い方が露骨ですっ」