六天楼(りくてんろう)の宝珠
 延延と続きそうな説教を、彼女は顔を赤らめて遮った。老女はきょとんとしている。

「おや。これは戴剋様の元寵姫とも思えぬ発言ですの。生娘でもあるまいし」

「……それはともかく。理由なんて、ご本人に聞いてください。私は別に、普通に接しているだけです」

「いけませんのう。このままではその内、足元をすくわれることになりかねませんぞ」

「わかりました、わかりましたから! 私、することがあるので。申し訳ありませんが」

 もう礼儀とか半ば追いやって、いつも通りの追い払い文句を言う。にも関わらず、これまたいつも通り槐苑の説教は半刻ほど続いた。

「……今日も長かったですね」

 招かれざる客がようやく帰った後、茶器の後片付けをしながら紗甫が笑い混じりに言った。

 長椅子の腕置きに顔を伏せた状態で、翠玉は嘆いてみせる。

「もう、何なのよあの人! そんなに世継ぎが気になるのなら、碩有様に直接話せばいいじゃない。私だって聞きたいぐらいよっ」

「翠玉様──」

 紗甫の戸惑う声に、彼女は顔を上げた。
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