六天楼(りくてんろう)の宝珠
「お前なら毎日見ているから、わかるものね。気を遣わなくていいのよ。……きっと、槐苑様の言う通りなんだわ」

「御館様は、翠玉さまを大切になさっているんですよ。一応、戴剋様がお亡くなりになってまだ一年半しか経っておりませんもの」

 確かに、そうかもしれないとは翠玉自身も思う。世間一般では、夫を亡くして『まだ』一年半なのだ。一生独り身を通す人だっているだろう。ましてや、当初自分はこの話に反対していた。

 だから今の状況を、これ幸いとしていれば良いのだが。

「……ねえ、紗甫」

「はい」

「やっぱり、紅ぐらい差した方がいいのかしら」

 侍女は少しの間呆気に取られたような顔をしていたが、くすりと笑って「かしこまりました」と、化粧道具を取りに物入れへと向かった。






「今日はいつもと雰囲気が違うような気がしますね」

 食材豊かな芸術的とも言える食卓を囲んで、碩有は屈託のない笑みを見せた。

「え……、違うって、どの辺りですか?」

 内心どきりとしながら、翠玉はあえて聞き返す。
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