六天楼(りくてんろう)の宝珠
「え、だって桐は機械工場の町でしょう。特産物なんて、螺子(ねじ)とかでは」

 大真面目に彼女が言うと、碩有は吹き出した。

「そりゃあそうかもしれませんが。わかりました、螺子以外で何か見つけて来ましょう」

「あ、いえ本当に、気を遣わなくてもいいの。妾は」

 自分はまた、その顔が見られさえすれば──と思わず口に出そうになった。

 何故か槐苑の言葉が蘇る。

──しどけない格好をするとか。

「〜〜〜っ、そうじゃなくて!」

「え? どうしたんですか」

 顔を上気させて激しく首を振り出す妻に、椅子に並んで座っていた碩有は不思議そうな顔をした。

「いいえ! 何でもないのですっ」

 今度は、引きつった笑顔を浮かべつつもやけに強く否定する。

「ならば良いのですが。随分と落ち着かないみたいですよ」

 心配そうに、彼は翠玉の額に手を伸ばして来た。温かい手の平が、ひたと彼女に触れる。

「熱があるのでは……」

 手を離して、今度は自分の額をそこに付けた。

 翠玉は固まった状態で、ただ目の前の夫の顔を凝視している。

──近い!!

「……翠玉」

「は、はい?」

 青年は顔を離すことなく、今日初めて妻の名前を呼んだ。いつもと同じく、ほんの少し照れくさそうに。

「どうやら、調子が悪いわけではないようですね。良かった」
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